「の料理は何でこう…普通なんだ?」
「なっ…!失礼だな!自分が食べたいって言ったんじゃないか!」
俺の料理ははっきり言って自分でも普通だと思う。
座木さんと同じように作っているのに、何故か普通になる。
(でも、リベみたいになるわけではなのだから、そこんとはこ勝ったなって思ってる)
「いっそ、リベザルの様に崩壊すればコメントのしようもあるのに、普通すぎて何とも言い難い」
「ちょ、普通であることに文句ですか!?美味しくないより、普通が良いって!」
俺は机を例の漫画の如くひっくり返してやろうと思ったがそんなことをしたら飛び蹴りが返ってくるのでその衝動を抑えて、机をバンッと叩くことで気を静めることにした。
パスッ!
「い、痛い…」
「……何してんの?」
俺は机を勢いよく叩こうとして、中途半端に先に手の甲が当たってしまって不発な音と共に手を負傷した。
痛む手を片手で擦って労わりたいが、何分両手を痛めたので擦る手も無く、手のひらをただただ見つめるしか出来ない。
あ、手の甲が真っ赤になってる。
その光景を見ながら俺の肩はがっくり下がっていく。
俺は…
「なんて阿呆なんだ…決まるところも決められないなんて…」
「はぁ?」
俺が勝手に自己嫌悪をしていると秋の心のない声が返ってくる。
それにすら言い返す気力も湧かない。
ていうか、手の甲、痛い。
「何がしたいの?」
「何でも無いです…気にしないでください、見なかったことにしてください、俺は所詮普通なんです。アハハ、そう普通ですよ。お料理の腕だってもうこれは呪いだ。
呪いって重複しないとか勝手に思ってたけど、どうやら重複するんですね。うふふ、俺が格好つかないのもきっともう呪いなんだろ。呪いだ、もうこれは呪いが呪いを呼んでるんだ。
くそう、誰だこんな呪いかけたやつ。俺を妬んでんのか。おいーやめろよー、そんな切望な眼で見るなってー照れるだろー、呪いかけちゃうほど俺が羨ましいのか…あでっ」
「気持ち悪い」
「そんなに、ずばっと言われたら、流石に、俺、傷つきますよ、秋さん」
独り芝居を打っていると秋に新聞紙を投げ付けられ痛恨の一撃を叩き込まれる。
俺は、うわーと泣きまねをしながら机に突っ伏して愚痴愚痴と文句を言う。
「仕方ないじゃん、座木さん調査でお昼帰ってこないし、リベは柚之助くんと遊びに行っちゃうんだもん…」
「……」
「家には俺と秋しかいなくて、秋の料理の腕は言わずもがなへたく…あでっ」
「何かな?」
「すいません、すいません、それだけは止めてください、一回目の本の表面は耐えられますが角は不味いですって、秋さん。そこはとても痛いと、当たる前から既に結果は見えてます!間に合ってます、その痛み!……えと、お料理の神様が秋を好いていなかったみたいですし」
「その言い方も癪に障るね」
「すいませんでした!しかし、すったもんだで、俺しか昼飯を作る人材が居ないんですよ!だから俺の全力で作った普通の料理を提供するわけです!」
「美味くもない、不味くもない」
「…座木さんはやく帰ってきて…」
俺はぐったりと机に頬をつけて、座木さんの帰宅を切実に願う。
何で飯作っただけでこんなにボロクソに言われにゃあかんのやー!
「あーあー…いいなぁ、みんな外行って…」
「……」
ぐったりとしたまま窓の外をながめる。
人は良いなぁ。自分の気が向いたら外に行って、自分の行きたい所に行って。
それが当たり前のことだと思ってるんだろうな。
「……辛気臭い顔をするな、不味くなるだろう」
「普通の味のくせに…」
「……」
「すいません、角は勘弁してください。黙って食べます」
俺はしゃきりと背筋を伸ばして、普通の味の炒飯を口に運ぶ。
ああ、自分で言うのもむなしいが普通の味だ…。
何がいけないんだろう。座木の言った通りの作り方のはずなんだけどな…分量だって、いつもはこれぞ男の調理!ってくらい大雑把だけど今日はきちんと量ったんだけどなぁ…
もしや、料理の神様が俺をどうでもいい存在として扱ってるのか。
学校のクラスとか(俺、学校行ってないけど)によくいる、アレか。友達じゃないけど、知り合いよりよく喋るぐらいの存在なのか。
くそ、もっとお近づきになりたいぜ、料理の神様…。
クラスのリーダー的存在を料理の神様だとすると、俺はクラスで時々ひょうきんな事を言うけどそこまで目立つほどじゃないとかいう立場だろう。
そこからいかに、クラスのリーダーに近づけるかという問題だ。ここは難しいぞ。なんてったって、リーダーの周りには守護神のような存在が居るものだし…
「外、行きたいの?」
「んぁ?」
俺の思考は今、如何にせこい手を使って守護神をなぎ倒していくかという策略を立てている途中だったため秋の発言に疎かな返事を返してしまった。
「もう一回!何?今、俺ようやく守護神その壱を、廊下に縄を引っ張って足を引っ掛けるって作戦で見事没落させたところなんだけど…」
「…相変わらず、すっ飛んだこと考えてるね」
「え?褒めんなって!」
「目出度すぎる頭だね」
「あれ!褒められてなかった!」
「それで?、外、いきたいわけ?」
「あー…うーん…」
俺は、アハハーと苦笑した。
外は行きたいけど、秋に迷惑をかけるのは嫌だし。
俺と日常を過ごすだけで相当な迷惑をかけていることは重々承知だし、前回風邪なんて引いたせいで本当に迷惑をかけてしまったから、もうこれ以上手をわずらわせたくはない。
けど、やっぱり、俺もまだまだ育ち盛り(?)なんで、外に行きたい気持ちは山々だ。
あ、山々だって言うけど、海海って言葉はないよね、川川とか?
そんなことはさておき、そんな心境渦巻いて、苦笑が出てしまった。
秋はそんな俺に気が付いているんだろう。ふーんと言って、最後の一口を租借し、お皿をシンクに置きに行ってしまった。
秋はこういう態度をとる相手を好ましいとは思わないタイプなので、うざがられたんだろう。
自由奔放推奨主義者だからね。
それがわかってても俺は白黒言えない。
秋を振り回す程、俺の心は自由奔放じゃないのだ。
シンクから帰ってきた秋はダイニングを通り過ぎてリビングへ去っていってしまった。
俺はそれ以降、黙々と咀嚼して、昼飯をたいらげた。
秋が運んだ洗いものと一緒に自分のを洗って俺はダイニングから部屋に戻った。
リビングにいる秋と、とてもじゃないがこんな空気で話せたものじゃない。
秋に貰ったピンク色のピンを触りながら、俺は部屋にあるテレビの電源をつけた。
俺の部屋の者は全て秋から与えられたものだ。
一人でいる時間が多い俺が退屈しないように、沢山いろいろな物をくれた。
しかもさり気無く置いていくのだ。「これ邪魔だから部屋に置いておいて」とか言ってわざわざテレビ持ってくる奴がいるかってーの!
それを有り難く使わせてもらってるわけだ。
いつかの約束の日まで、俺はゆるゆると秋に与えられるぬるま湯に浸って生きている。
その日、結局俺は晩御飯を食べることなく一人部屋にこもりずーっとテレビをぼーっと見ていた。
そうしてまた、おれは約束の日をゆっくりと待った。
何気ない中に、迫りくる