「おや、じゃないですか」
「うわ、出たな陰険メガネ」

麗らかな陽気。グランコクマの宮殿で陛下に障気の具合をご報告にあがろうと扉をノックしようとしたときだった。俺の前で開かれた扉。 出会ってしまったジェイド・カーティス大佐その人。相変わらず涼しげな目元しやがって。

「というか」
俺はゴホンと咳を一つした。(いや、喉の調子が悪い訳じゃなくて)

「カーティス大佐。私は貴方より官位が上の筈ですが?」
「それは失礼を。陛下補佐官とは名ばかりの策略参謀の殿」
「アハ、お前に言われるとすっごいむかつく」
「ふむ、何故でしょうね」

俺のその言葉にジェイドは顎に手を当てて考え出した。俺はその場で腕を組んで待つ。 ていうかお前のその考える仕草すら俺を小馬鹿にしているような気がしてならないんだけど。

「貴方とは幼少の頃からの知り合いで既に私の扱いには慣れているモノかと」
「年々今まで以上に輪をかけて嫌みな性格になってってんだよ。歳とったな。ジェイド小父さん」
「いやですねぇ。そんな可愛くない子供は知り合いにいませんよ」

ハッハッハと嗤ってるんだか嗤ってないんだか、ていうか俺の存在を多分嗤ってるんだこいつ。 その態度にイライラした俺は一緒になってアハハハハハと抑揚無く無表情で嗤って見せた。 多分端からみたら恐ろしく変な二人組だろう。 現に部屋の中にいるフリングス少将が驚いた顔をしてこちらを見ているのが目の端に映った。 察しのいい彼は俺の隣にいるジェイドを見て直ぐに不憫そうな表情になったが。チっ。じゃぁ変われよ。

「おい、お前等何してんだ」

この声の主を俺は一人しかしらない。我が国グランコクマの我が君。

「申し訳有りません、陛下。カーティス大佐にナンパされまして」
「おや?がしてきたんでしょう?」
「は?お前、頭大丈夫?」

中から愉快そうに嗤うピオニー陛下の声を聞きながら俺はジェイドの横を通り過ぎる。 通り過ぎた俺の背にかかる声。

「今度久しぶりにお茶でも如何ですか?」
「絶対、嫌だ」

なんて嘘。ホントはずっと喋っていたい。



虚(テル)言(ア・ライ)癖