「こんなところで何してるのさ」

「・・・芦川・・・」



ベンチに座ったまま伏せていたらいつの間にか寝ていたらしい。

誰かが砂利を踏む音で目が覚めた。

僕の目の前に立っていたのは、僕の悩みの種、芦川美鶴。



僕、芦川に怒られるのかな・・・。



「何でそんなに情けない顔してるんだよ」

「え?」



芦川が俺の隣に座ろうとしたので横にずれた。

芦川が腰を掛ける。

僕は足を抱えたまま横に座る芦川を盗み見た。



、そうやっていつもお前俺のこと盗み見てるだろ」

「何で知ってっ!」



驚いたように芦川を見ると、芦川が笑っているのを直視してしまった。

顔が赤くなるのが自分でもわかる。

恥ずかしい。

僕は慌てて顔を膝にうずめた。

芦川が笑っているのが気配でわかる。



「そんなの簡単だ。俺ものこと見てたからな」

「・・・ぇ?」



一頻り笑った後、急に芦川の声が真面目になった。

芦川を見ると芦川もこちらを見ていて僕は又顔を伏せようとした。

けど芦川のほうが一足早くて、僕は芦川の手に顔を動かせないように固定された。

真面目な顔した芦川も格好いい。

何かの拷問かと思い、先ほど手を振り払った事への嫌がらせかと思った。

芦川の手が僕の顔に伸びる。

打たれるかと思って、僕は首をすくめ目を閉じた。

しかし、いつまでたっても衝撃がこない。



「やっぱり」



芦川の声に僕は恐る恐る目を開ける。

芦川の顔がよく見えない。

そこでやっと僕は眼鏡を芦川に奪われた事に気が付いた。



「ちょっ、眼鏡・・・」

は眼鏡が無いほうが良い」



僕が良く見えるようにか、芦川が僕に顔を近づけて笑った。

心臓が口から出るかと思うくらいにドキドキして。



「明日、眼鏡掛けずに学校来いよ。

「え、ちょっと・・・名前・・・」



芦川に名前を呼ばれたことに気を取られていると、芦川は僕の眼鏡を持ったまま夕闇の中に消えた。



「ハッ!ちょっと眼鏡!」



僕の叫びも虚しく眼鏡は帰ってこなかった。