「芦川・・・」
「あ、。眼鏡掛けてこなかったね。えらいえらい」
なんか年下相手みたいになってるんですけど!?
昨日は、塀や電信柱に激突しながら家に帰ると親に虐めにあったのかと問いただされるし。
いや、実際にあってるんだけど。そんな事いえる筈も無く僕は学校に忘れたのだと嘘をついた。
眼鏡がなければ壁にぶつかるのはわかってるから学校に忘れるなんてありえないけど、それ以上何も聞かないでおいてくれた。
親に勧められてしぶしぶ作ったコンタクトが今は心強い。
本当にコンタクトを作っといて良かったと思う。
「ホントに昨日大変だったんだから」
僕は教室に入ると一直線に芦川のもとに行った。
机の横に立ち、文句をいいながら芦川の机に置いてあった眼鏡を取る。
「何のつもりであんな・・・」
「来る時どうだった?」
「は?」
「だから、来る時の周囲の人の感じ」
「感じって言われてもいつもどおりだったけど・・・いや、何か視線は感じた気もするけど・・・チラチラ何度も見られたし・・・」
僕の言葉に芦川が満足そうに笑う。
意味不明な芦川に僕が間抜けな顔をしていると肩を叩かれた。
振り返るとクラスの女子数人。
吃驚してちょっと下がった。未だかつてこんなに女子に詰め寄られた事が無い。
芦川に近づくなって言われるのかな・・・?
僕が怪訝そうな顔をして女子をみると何故か満面の笑み。
怖っ!
言われる前に先に謝ろうと口を開いたら先を越された。
「くんって眼鏡伊達だったの?」
「え、違うけど・・・」
「じゃぁ、コンタクト?」
「う、うん」
キャピキャピと喜んでいる女子が分からない。
何に喜んでいるんだ?
「くん眼鏡掛けない方が似合ってるよ」
女子一団はそういって僕から離れていった。
訳がわからず困惑していると、昨日机をひっくり返してきた男子と目が合った。
直ぐにそらされたけど。
顔赤くして、何だあいつ。
視線を向ける先にいる人間が視線をそらすので訳が分からず芦川に視線を移した。
「何、笑ってるのさ」
肩を震わして笑っている芦川に僕は本当に訳がわからず首を捻った。
「何な訳?」
「これから眼鏡を掛けずに生活したら意味がわかるんじゃない?」
芦川からは何度聞いても眼鏡を外して、という答えしか返ってこない。
僕の眼鏡は嫌われているのか・・・?
芦川に何回も言われて僕は流されるままに頷いた。
* * *
「何てことがあって今、僕は眼鏡ではないわけなんですよね」
「へぇ」
御清聴ありがとうございます、と僕が格好つけていってみると亘は拍手をくれた。
小学校の時に美鶴に紹介されて出来た友達第2号、亘。
中学生になった今、僕と亘と美鶴は同じクラスだ。
放課後、亘は日直で残り、俺は先生に呼ばれている美鶴を待って、たわいの無い話をしていた。
それで、亘は僕がいつからコンタクトなのかと言う話になり先の話をした、といった具合だ。
改めて亘に話していると、僕がかわれたのは美鶴のおかげだとつくづく思う。
「、お待たせ」
「あ、美鶴」
「お疲れ」
僕と亘は二人で完全な科白を言ったのに驚き、顔を見合わせて笑った。
美鶴に気持ち悪い、と言われながら僕は亘に手を振って美鶴と共に教室を去った。
学校なんて嫌いだった。
下駄箱で靴を履き替え外に出て静まった校舎を振り返る。
学校なんて嫌いだった、行きたくなかった。
つらい事ばかりで大人たちの言う良い思い出なんて一つも作れないと思ってた。
けど、僕の中のくだらない考えを薙ぎ払って現れた美鶴に僕は救われた。
美鶴の居る学校は楽しい。
「?おいていくぞ」
「ええ!?酷くない!?待ってよ!」
僕は慌てて結構先に行ってしまった美鶴を走って追いかけた。