思い立ったが吉日。


そんな言葉があったなーとしみじみ思った。


「美鶴、別れよ。バイバイ」



* * *



亘が帰った後、オレは一人で考えた。
このままの状況は、オレと美鶴の関係は、一体なんだ?

恋人だと、言えるのだろうか。
美鶴はオレの知っている限り、というか噂だが、彼女が出来たらしい。

彼女それはつまり、オレじゃない。オレ、男だし。

オレはそもそも、彼氏なのか?いや、美鶴が彼氏?そしたらオレは彼女?いやいや、オレは男だって。
オレは彼氏。美鶴も彼氏になるのか。

それって変だな。
恋人は、彼氏彼女のワンセットだ。
彼氏彼氏って何だよ。おかしいじゃないか。


そうか、


おかしいんだ


「そっか可笑しいのか―」

アハハーと空笑いして俺は、胸を握った。


「何で…痛いんだろうな、こんなに放っておかれてるのに」


おかしいって言葉痛い。


「美鶴…っ、み、つる…」


こんなに思ってるのに

こんなに優しい響きなのに


オレもうそれだけじゃ満足できなくなってるんだ。


抱きしめてよ。
こっち向いてよ。
声聞かせてよ。

オレの名前呼んでよ。


「…つる、みつる…」




オレすっごい幸せだったよ。
美鶴の声も瞳も仕草も、全部ぜんぶ、好き、だったんだ。


だから、この関係はもう嫌だ。
縋りつきたいのに縋りつけないこの関係は、もう嫌だ。







* * *



「なに?」


オレはその日の夜、即行動に起こした。

携帯から美鶴に電話をかけることにした。
前は頻繁にかけた番号を今もオレは覚えていて、手はすらすらと番号を打った。


何回目かのコール。留守電になるんじゃないかと思ったその時、美鶴が出た。
「なに?」たったその一言だった。俺の名前も呼んでくれない。
たぶん、電話を取るのも嫌だったんだろう。

そんな些細なことに傷つき、その一声が聴こえただけでも、オレは心が穏やかになった。


「ごめん、今いい?」

「…だから、なに?」


少しの時間も割けないらしい。
そうだよね、だって後ろで、女の子の声が聞こえる。
はやく、終わらせたい、よね。


「あのさ…最近、調子どう?」
「……そんなことで電話してきたの?」


そんなこと、確かに、そうだね、そんなことだよ。
でも、俺は、最近の美鶴を知らないんだよ、そんなことなんて無いんだよ。


「アハ、ごめんごめん、あのさ」



『美鶴くん、まだぁ?』



電話の向こうから聞こえてくる声。
それを美鶴が宥める。


少し前まで、そこはオレの場所だったのに…。




「美鶴、別れよう。バイバイ」



喉につっかえていた言葉が、すんなりと零れた。

ああ、きっかけ、だったんだ。
運命は、オレと美鶴が別れることの背を押している。


オレはそれだけ言うとゆっくりと携帯の通話を切った。



08/11/14