「げっ」
「あ、ゼロイチ」
「ホントだ。ゼロだ」


昼下がりのファーストフード店。
混雑を脱したその時間は店内の空気を変えるほどゆっくりとした時間を刻んでいた。
疎らにいる客はこの時間を狙って入った者が大半で、各々が読書や談笑の場として活用している。
店員は混雑時の目まぐるしい忙しさから解放され、殆どの人間が休憩に入っているらしく、フロアには2人しか窺えなかった。
その二人の中の一人が知り合いだった。
母国に帰れず帰郷の資金をバイトで何とかしようとし、寧ろ生活費に殆どが賄われ、帰郷の資金まで回らない可哀想な友人。
不運の星の下に産まれたのだと俺はひっそり確信している彼の名は桜庭零一。
「れいいち」と言う何も関わらず秋に「ゼロイチ」と呼ばれている辺りから既に、不運の星の下だと確信される。
それに便乗して「ゼロ」と呼ぶ自分も自分かも知れないけれど、深くは追求しないでもらいたい。


「ちっ、帰れよ」
「へぇ、お客様にそう言うこと言うんだ?」
「……さっさと選んで席に行け」


ゼロと秋は決して仲が悪いわけではない。
秋がゼロをおちょくるからゼロを怒らしているだけであって、というか俺には秋におちょくられるのも満更じゃないように見える。
と、いうことはつまり。この間聞いた通りだと。


「もしかしてゼロってM?」
「はぁ?」
「!アハハハハッ」
「あ、ごめん心の声が」


俺が突然真顔でポツリと零した言葉に、ゼロは唖然とし秋は腹を抱えて笑い出した。
笑い出した秋はもう止められないので収まるまで放置しておく。
現に笑いすぎで肩プルプル震わして座り込んでるし。
だから、とりあえずゼロに対して取り繕っておくことにした。
あんまりフォローに成ってないとは自分でも思うけど。


「…、お前それフォローになってると思うか?」
「思わない」
「……。何で俺がMなんだよ」
「この間聞いた。秋がSならゼロはMだって」
「…お前無駄な知識をに入れ込むの止めろ」


俺の返答に深いため息を付いたゼロはカウンターから身を乗り出して、座り込んで笑っている秋にそう零した。
ようやく笑い終わったらしい秋は笑いすぎで出た涙を拭いながら、しかし憮然とした様子でゼロに向き直す。


「僕じゃないよ。僕がにそんな言葉教える分けないだろ」
「じゃぁ、誰に吹き込まれたんだよ」
「さぁ?本人に聞きなよ」


ゼロと秋が揃って俺の方を見る。
やっぱり意外に仲良いじゃないか。
俺は聞かれた事に単刀直入に答えた。


「カイ」


店の空気が若干涼しくなった気がした。









、今度からカイの言うことは全部聞き流せ」
「寧ろ、カイと話したら駄目だよ。汚染されるから」
「ん?うん、わかった?」