時々あまりに世界が愛おしくて息が苦しくなる。
は窓から内側に垂らしていた足を抱えて、その上に顎を乗せた。
「こほっ」
一週間前のあの時からまだ風邪は治っていない。
おかげで不可抗力で怒鳴ってしまったリベザルに謝るチャンスを失っている。
「はぁ・・・・」
良いことはまったくない。
風邪のせいで体はだるいし、リベザルに謝れないし、というか、誰にも会えない。
まったく面倒な体だ。
気晴らしに外でも見ようと窓を開けようとしたが、窓は開けられない。
今の状況の自分は、開けてしまってから自分を守ることはできないのだ。
仕方なしに出窓に座って、窓を閉じたまま外を見ることにした。
ガラス一枚の世界がとても愛おしい。
このガラスの向こうは沢山の生物で覆い尽くされている。
人も妖怪も等しく。
憎悪と愛情を持ち、辻褄や矛盾を抱き、一人でいて、一人ではない。
なんて愛おしいのだろう。
ガラスに額を当てるとひんやりと冷たかった。
醜いところも綺麗な部分も晴青を魅了してやまない。
命とは、なんて儚く脆く壊れやすく壊しやすく、美しく輝き唯一無二。
なんて愛おしいのだろう。
命。
「いのち…いきていること…」
ガラスに当てた額は冷えすぎて感度が無くなった。
「」
「っ!」
掛けられた聞きなれた声に振り返る。
いつもと変わらない美麗な容姿に、不釣り合いに眉を寄せている。
ああ。怒っているんだ。
「秋…」
「何をしているんだ、君は。絶対安静だって言っただろう」
声がきつい。やっぱり怒っているんだ。
またひとつ迷惑をかけてしまった。
「ごめんね、すぐに寝るよ…」
ああ、ダメだな。
風邪を引いているせいでいつもより自分が弱い。
こんなこと受け流せなくちゃいけないのに、こんな自分は見せたくないのに、そんなの自分でわかってるのに。
止まらない、感慨が噴き出してくる。
こんな思い見せたくないのに。
だめみないで
これはぼくじゃない
だめみないで
きみのにもつはいやだ
が ま ん し た い
「は家が好きなんだね、ああ違うか。人が、命が好きなのか」
頭の上にのせられた掌がすごく暖かかった。