36.6


この数字はつまり


「熱は下がったね」



「んーーーーーーーーーー、長い戦いだった!」


背伸びしながら俺はベッドの上に胡坐をかいた。


「病み上がりなんだから、調子に乗らない。またぶり返すよ」


秋はそう言って俺の頭を軽く叩いた。


「わかってる。ごめん、ありがとう」


俺が叩かれた部分を触りながら、秋を見ると、秋は久しぶりにその瞳に俺を映していた。


よかった、俺はまだ存在できてるんだ。


本当に長い戦いだった。

しつこく粘った風邪は10日間も俺の体内に潜伏していて、その間部屋から出られない俺は秋に多大な迷惑をかけた。



トイレとか風呂とかの度に秋を呼んで、香を焚いてもらってもらったり。


面倒なことばかりだった。でも、しないと俺は「今の生活」を出来なくなってしまう。


リベや座木さん、誰にも絶対に会わない生活はひどく寂しかった。


誰の瞳にも映らない俺は、存在できているのか、消えているのか、自分ですら酷く曖昧だった。


秋にたくさん迷惑をかけた。



秋、あき


「ごめんなさい。いっぱい迷惑かけた」


俺は無意識にぽつりと呟いた。





秋は何も言わなかった。

無言の中に、ああ、言わなければ良かった、という自己嫌悪を育んでいると、不意に煙草の香りが鼻を擽った。



顔をあげると、秋が目の前で煙草を吸っていた。

いつの間に。

俺が呆けていると、秋は吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出して、俺を呆れた目で見てきた。


「今さら、何言ってるの。僕は最初から全部引き受けたつもりでを傍に置いてるんだから、イチイチ気にするな」


秋はそう言って、俺の頭を一撫でした。


「治ってよかった。ようやくの前で気を張らなくて良くなったわけだ」



「秋…」



「はやく、リベザルにあってあげなよ。居間でしょぼくれてたよ」



秋はロフトから飛び降りて、出入り口の扉を開いた。


其処は、外への入り口。

この部屋の、出口。


秋によって開けられた扉は俺を、待っているんだ。



「うん!」



勢いよく、俺はロフトを飛び降りた。





そしてまた、ロフトの縁に、足を引掛けて




落ちた。