「ね、臨也くん」
『何かな?』
「なんで君は俺の携帯電話を知っているのかな?」
『知りたい?』
「ううん。何か怖いから止めておく」
『遠慮しなくても良いのに』
遠慮じゃねぇよ。
自室のベッドのシーツにくるまりながら枕元に置いてある時計を見た。
午前1時。
「何でこんな時間に電話してくんのさ」
『の声が聞きたかったから』
上手いこと言うじゃないか。
携帯を持ち替えて顔に掛かっていた髪を指で払った。
カーテンの閉まっていない部屋に月光が注ぐ。
青白く浮かび上がる自室は携帯越しの臨也の声との声が静かに響いた。
「それで、何かご用かな?人がせっかくオフの日に電話してくるぐらいなんだから大した理由を付けてくれよ、臨也」
『あれ、今日仕事オフだったの?』
知ってて連絡してくるくせに。
ベッドの上でつい先ほどまで惰眠を貪っていた体に鞭打ってベッドから立ち上がる。
携帯をスタンドにおいて離れても声が聞こえるように設定しては着替えに移った。
クローゼットを開けていつものスーツを取り出す。
中に着るワイシャツは何色にしよう。
「それで?」
『話しに相変わらずノってくれないねぇ…。俺の家に着て。頼みたいことがあるんだ』
「報酬楽しみにしてるから」
『言ってくれるね』
クックッと肩を揺らして笑いながら俺は濃い水色のワイシャツを手に取った。
袖を通すとクリーニング屋の糊の匂いがした。
黒いズボンに手を伸ばす。
「どうせ、稼いでんだろ?いちホストの俺は万年金欠まっしぐら何だから弾んでくれよ」
『渋谷の一等地に家構えておばさん達キャーキャー言わせて貢がせてる君の足下には及ばないさ』
「若い子だってキャーキャー言わせてますよ」
拗ねたように返すと電話の向こうで笑う声が聞こえた。
黒いジャケットに袖を通す。
チラリと時計を見て、鏡に視線を移し襟を正す。
ワイシャツのボタンはいつも二個開けるように心がけている。
重すぎない軽すぎない。
適度な刺激を。
「30分で行くようにする」
『頼むよ。待ってるから、』
電話が切れてツーツーという音が響く。
は携帯と財布をズボンに押し込んで部屋を出た。
この部屋には誰も居ない。