俺には好きな人がいる。紫色の髪に縁のない眼鏡をかけている彼。 そう、彼女じゃなくて彼。簡単に言うと男だ。 初めて見たときは美少女だと思っていたが、チャラ男にナンパされて男だと不機嫌そうに口にしたときのことを俺は忘れてはいない。 偶々居合わせただけだけど、俺はその言葉にもの凄く狼狽したなぁ。 だって俺は男だから相手が女って事は希望があるじゃないか。 それが男って…。結構そこんとこは重要だと思うから俺はショックだった。 けどやっぱり好きなんだよな。 電話してる姿とか、疲れた表情の時とか、側に駆け寄っていきたいと思ってしまう。 俺は彼に落ちてしまったのだ。恋に、ね。

いやだが、その前にいくつも越えなくてはいけない障害もある。 彼の事をもっと知る、というか名前を知ることをまずしなくては。 そう、俺はまだ名前すら聞けていないのだ。 夕方のこの時間に偶に彼が通りかかるのを俺は大体フェンス越しに見ているだけなのだ。 ハハ、意気地のない男だ。 でも最初の一歩を踏み出すことはとても難しい。 最初の一歩で捕らえられる雰囲気は違う物だし。

けど、その前に俺にはやらなくてはいけないことがある。
「こんなところにいたのか」
「ああ、ごめん探させた?」
「少しな。教授が呼んでいる」
「…うん、わかったよ、…グラハム」
このくだらない不毛な戦いに終止符を打たなくては。


貴方の知らないところで、私は

(2007.11.05/主人公が気持ち悪い人に)