ある程度走ったところで俺は足を止めた。
しばらく動いていなかった事で体力が落ちていてこれ以上は走れないと言うのもあるが、気持ちが落ち着いてきたというのもあった。
誰も居ない静かな廊下から俺は外を見た。
月が綺麗だった。
そして夜空も綺麗だった。
俺は、ずっと月は俺と同じモノだと思っていた。
俺と同じ孤独の中を生きているモノだと。
ああ、でも、違うんだ。
遠く遠くにポツリポツリと星が浮かんでいる。
遠くにいても空で繋がっていられるその星は月が孤独じゃない証。
重なる事・側に居る事が独りじゃない証、なんて、そんなことない。
離れていても同じ大地の上で記憶の中で繋がっていられる。
それを見て何か吹っ切れた気がした。
俺はコムイさんの元に走った。
「コムイさん!俺、彼女を救いたいんだ」
リーバー班長とコムイさんが難しい顔をして少女の事について話していたところに俺は割り込む。
息が整わない。
でも、凄く清々しかった。
「・・・わかってる、それを今どうすれば良いか考えて・・・」
「俺のイノセンスを使って!」
俺のその言葉にコムイの目が見開かれる。
驚き以外の何ものでもない。
「そんな無茶な・・・」
「違う、違うんだコムイさん。聞いて。俺のイノセンスは・・・」
俺は必死でコムイさんに話した。
コムイさんは渋い顔をして、リーバー班長はとめに入ったけれど、俺の決意は揺るがなかった。
事が一刻を争う事は既に分かってるだろう。
コムイさんは悲しそうな顔をしながら俺の案を受け入れてくれて大元帥に話してくると部屋を出て行った。
リーバー班長はまだ俺を引き止める。
そんなリーバー班長に俺は笑いかけた。
最近めっきり笑っていなかったからなんだか清清しく新鮮だった。
「俺、後悔してないから」
俺は走って自分の部屋へと向かった。
この場にいなくなるからと言って、この想いが塵になるわけではない。
そう、俺が記憶し続ける事で彼と繋がっていられる。
そしてブックマンである彼は、きっと俺のことを記憶しているはずだ。
記憶を糧に俺はきっとやっていける。
今気が付いたのだけれど、
俺の胸が痛かったのは、叶わない恋もそうだけど何より
忘れ去られて置いて行かれることが怖かったからなんだ。