俺は夕方、人が居なくなった中庭を横切ろうとしたとき吃驚なものを見た。
あのが女から告白を受けているところ。
ぽわぽわしている奴だからまぁ結構な人数に好かれているのは何となく分かっていたけれど、まさか告白される時があるなんて。
俺はすぐさま木の陰に隠れた。
暗くて相手の顔は伺えない。声も聞いたことが無かった。
気配を潜めて聞き耳を立てる。
「ずっと好きでした。私と付き合ってください!」
途中聞きとはいえ重要なところを聞いてしまった。
俺は木に背を預けて顔を背けた。何故だか胸がそわそわする。
何でだ。此処から走り去ってしまいたい気持ちとその後を聞きたい気持ちがせめぎあって、苦しかった。
は何て答えるのだろう。
もし、が告白を受けたら。
考えたくなかった。
「オレ君のことあんまり知らないからね」
「それならこれから知ってくれればいいです!」
いつも俺が聞くような告白が今はに向けられている。
この気持ちは何だ。もやもやする。泣きたいような心境になってくる。
「ごめんね」
その言葉に胸が軽くなった。はあの女と付き合わない。
俺は緊張の糸が切れてその場に座り込んだ。
「そんなっ!どうして!」
「好きな人がいるんだ」
その衝撃をなんと言おうか。
思わず女じゃなくて俺が声を出しそうになった。
「誰!?誰なの!?」
俺も知りたい。に思わせているのは誰だ。
そこで俺は気が付いた。
こんな風に思うのはもしかして、もしかしなくても。
俺はこれ以上この場に居られなくて小走りにその場を後にした。
こんな気持ち
おかしいに決まってる……っ!
どんどん走る速度は速くなって、無意識に俺は全速力で寮へ戻ってきていた。
談話室に居る相棒達に如何かしたかと声を掛けられたが俺はそれを無視して部屋へと階段を駆け上がった。
部屋で気に入っている窓辺に腰を掛けた。
そこは、ついこの間満面の笑みを浮かべたを見たところで。
その光景が頭から離れない。
「好きな人が居るんだ」
その言葉が頭から離れない。
知らず知らずのうちに俺はきつく手を握り締めていた。
こんなに人を思うことなんて初めてで。
こんなに人を思うことに辛いと思うとは。
がこの間歌っていた片思いの歌は好きな奴のためだと思うと、すごく、いらついた。
が好きな奴を殴り殺してまでをこの手にしたいと思い出してしまうとは。
そんな自分が、とても、腹立たしい。
初めてした恋は、言ってもいないのに失恋決定だとは。
まぁ、そもそも相手も男なのだ。
おそらくもっと前から気が付いていても俺はいらついていただろう。
目の前にあるのに手に入れられない。
歯がゆく、もどかしい。
そんな気持ちを持つ自分が嫌で、俺は握り締めていた拳で窓を勢いに任せて殴った。
魔法で強化されている窓にはヒビ一つ入らなかった。
殴った拳が痛い。
けれど、それ以上に、この、むねが、いたい。
突き刺さった茨インク
(耳も胸も目も喉も頭も指先も、すべて、痛い)