何だか、最近シリウスの様子が変だ。
ジェームズたちとはいつもどうり接しているのに、オレを避けているように思える。
ていうか、避けられているんだと思う。
挨拶したら返してはくれるけど、直ぐ席を立って何処かいっちゃうし。
前みたいに見かけても声を掛けてくれることは少なくなって。
決定的に確信は持ったのは今しがた。
図書室の本棚の間で本をパラパラと読んでいたら
シリウスが現れて前なら嬉しそうな顔して近づいてきたのに、
今はあからさまに「しまった」という顔をして
踵を返して走って行ってしまった。
オレはシリウスの気に障る何かをしてしまったのだろうか。
本を持っていられなくてオレは本を音を立てて落とした。
本はマグルの縄跳びの飛び方のページを開いて足元に落ちた。
そして、オレ自身も崩れ落ちた。
許されない恋だって分かってたから、オレは隠して、隠して、
迷惑が掛からないようにしてきたのに。
オレは嫌われたんだ。
それを自覚すると胸が、痛くて。
前が霞みだした。頬が熱い。体が重くて、鼻がツンとする。
頬に手をやると手が濡れた。
オレは、泣いている、のか…?
「はは…オレ、気持ち悪い…」
濡れた手を見ながらオレはそう呟いた。
男に恋して、男の事ばかり考えて。
そうだよ。良く考えなくても、オレはおかしいんだ。オレは、きもちがわるいんだ。
シリウスはきっとそれに気が付いたんだろう。
それで、オレを避けるんだ。きもちわるいから。
ポタポタと滴り落ちる水が止まらない。
始めからわかっていたじゃないか。
オレの思いは絶対に彼に届かないことぐらい。
超えられない障害がいくつもいくつも存在することぐらい。
入学式で一目見たときから恋に落ちてオレはずっと彼を見てきた。
その時からオレは諦めてたじゃないか。
彼は、お金持ちで、貴族で、人気者で、仲間が居て、
ファンが居て、頭が良くて、格好良くて、勇気があって、優しくて。
オレとは天と地の差。
おまけに彼とオレはどちらも男。
無理じゃないか。明らかに。
だから諦めていた。けど、気持ちは止められなくて。
彼の色恋沙汰の噂に一喜一憂して。
長期休みも出来るだけホグイワーツに居るようにしたのも彼が居るから。
少しでも見ていたくて。
舞い上がっていたんだ。
今年、3年目の冬。彼に初めて名前を呼ばれたあの日。
きかっけは彼の仲間(相棒)に話しかけられたことだけど、
彼がオレを知っていることが嬉しくて嬉しくて。
舞い上がっていたんだ。
ファーストネームで呼ばれる事に。
舞い上がっていたんだ。
彼に、好かれたんだと。
「ホント、おれ、ばかみたい……」
馬鹿だよ。オレは。
自惚れるのもたいがいにしろっていう話だよね。
それでも、彼が好きだったんだよ。キミが好きなんだよ。
「…しりうす…」
今居ない、去っていた彼に想いを馳せてオレは濡れた手で顔を覆って声を殺して泣いた。
もう駄目だよ。
諦めないと。
今年、今日で、この恋は終わりだ。
来年、明日。今度こそ、もう好きなんて感情捨てなくちゃいけないんだ。
オレは、密かに想うことも、もう、禁じられたんだ。
もう、忘れるから。
きみのことを想わないから。
せめて、今だけは、今日だけは、きみを想って泣かせて
施錠した鍵は螺旋の彼方
(声に出したらいけない言葉ってあるんだね)