コラージュ=貼り付け合成







「あ、あの!シリウス・ブラックさんですよね! お、俺、ご存じないでしょうが貴方と同じ1年生でハッフルパフのっていいます! よ、よかったらなんですが、お、おおおおお、お友達になってください!お願いします!」
「…はぁ?」

いつも通りスネイプをからかって遊んだ帰り道。
ジェームズたちと談笑しながら歩いていると、そいつは上の階から文字通り降ってきた。
呆気にとられている俺たちをよそに、アワアワと自分の足に引っかかりながら俺に近づいてきて、冒頭の話に到る。





「あの、駄目…ですか?」
「……」

俺より幾分低い顔が懇願するように目尻を下げて心配そうに見上げてくる。
例えるならばチワワだ。そんなチワワに見上げられて俺の額には冷や汗がびっしり浮かんでいる。
誰だって突然こんなこといわれて驚かない奴はいないだろ。
俺が返答に困っていると、いつの間にか復活したらしいジェームズたちが面白いモノを見るような目でこちらを見てくる。
(見てねぇで助けろ!)とチラリとジェームズに視線で助けを求めるが口パクで( ガ ン バ )とご丁寧に良い笑顔でおまけに親指を立て、いやに巧いウインクまでオプション付けされて返された。

「ジェームズ!てっめぇ…!」
「ああ、駄目だよシリウス。しっかりお返事してあげないと」

ニヤニヤと笑いながら言うジェームズに苛々した俺はそのチワワの首を掴み横に転がすように投げた。 微かに、うわ、という声が聞こえたがお構いなしだ。

「誰がお前なんかとなるか!」

俺はそう言うと鼻を鳴らしてその場からグリフィンドール寮へ戻るため離れていった。
これ以上この場にいる意味がない。
少しだけ八つ当たり気味に当たってしまったチワワに申し訳ないという罪悪感を抱きつつも俺は振り返らなかった。


* * *



しまった、と思った。
シリウスをからかいすぎてしまい関係のない彼を僕は巻き込んでしまったようだ。

「大丈夫かい?」

シリウスに軽々と投げられた彼は壁に背中を打ち付けたらしく背中を押さえている。
僕はリーマスと共に彼に手を貸そうと近づいた。
東洋人らしい艶やかな黒髪。少し眺めの前髪から顔を除くと特になんて事はない、当たり障りない、平凡な顔。
多分こんな出会い方をしなければ気が付かなかっただろう。
彼を立たせようと腕を掴んだときだった。
パシッと響く音。

「触るな!」

澄んだ響く声に拒絶をされた。
払われた手がジンジンと痛む。
僕とリーマス、ピーターは再び呆気にとられた。

「あ…、ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」

先程僕を拒んだときとは人が変わったようにオドオドとし、困ったように目尻を下げている。
その表情がチワワによく似ていた。
僕が何か言おうと口を開く前に彼は立ち上がり、「ごめんなさい」と一礼して逃げるように去っていってしまった。

「へぇ。彼、面白いね」

口元が弧を描くのを僕は止められなかった。




* * *



僕は気が付いてしまった。
ジェームズやピーターの位置からは見えないだろうけれど、僕の位置からはしっかりと見えてしまったから。
投げ飛ばされた彼に近づいたとき見えた横顔が、酷く辛そうに歪んでいることに。
シリウスはやり過ぎだった。
ジェームズに苛々するのは仕方ないことだけれど彼に当たるのはお門違いだ。
後でしっかりお灸を据えてやろうと思いつつ、彼に声をかけようと思っていたのだけれど。
言葉が出なかった。
彼のその表情は僕の心の中の何かをつついて揺り動かし声をかけるのを止まらせた。

「大丈夫かい?」

おそらくジェームズには見えていなかったのだろう。
あまり心配していないような軽い口調で彼に声をかけている。
そして不躾にも背をかばう彼を立たせようと腕を掴んだ。

「触るな!」

僕がジェームズに牽制する前に彼が叫びジェームズの手を払った。
正直驚いた。
先程シリウスに声をかけたときとは全然違う。
全然ぶれていない凛とした声だった。
言い放った直後彼はハッとして慌ててジェームズに謝罪した。
彼が謝罪する要素なんて何処にもないのに。
彼は最後にもう一度だけ謝罪すると腰を庇いながらも風のように走っていった。
腰が大丈夫だったならもっとスピードがでていただろう。
僕は何も出来ずにただ見ているだけだった。

「へぇ。彼、面白いね」

ジェームズがそう言うのが聞こえた。
横を見ると口元に弧を描いているジェームズ。
これは良くないことをする前触れだ。

「ジェームズ、彼を悲しませるようなことはしないでよ」
「ハハ、なに言ってるんだリーマス。それは彼次第だよ。うん、そう。向坂晴青くん次第だよ」

口調は軽いながらもその目はスネイプをいじめているとき同様の光を放っていた。
ああ、ジェームズはきっと彼を泣かせる。
なんとなくそんな気がした。

「絶対後悔するよ、ジェームズ」

僕は釘をさしたからね。






続くかどうかはわかんないです。