俺が「俺」で居られなくなる日まであと、13日。


昨日存分に寝たせいで朝は吃驚するほどすっきり起きられた。
まだ、生徒の起床時間には早いらしく騒がしい声は聞こえてこない。
俺もいつも通りだったらこんなに早く起きてはいないが、生憎今はいつもとは違うのだ。


さて、これからどうしよう。
ベッドの中で自分の体温で暖まったシーツに蹲りながら頭を動かす。
そういえば、昨日寝る前に決意したことが何かあったような……ムムム…何だったかな。
これだから俺の脳味噌は嫌だ。
この歳にして直ぐに忘れちゃうんだから将来アルツハイマーになってしまうのでは…。
あ、そういえば将来も何もあったもんじゃなかった。


一度寮に戻ろう、そう思った。
折角朝早く起きたわけだし、知り合いにも話しておかないと。保健室生活の件だけ。
全部話すなんて肝の据わったこと、俺には出来ない。
何て言おうかと考えながら、俺はベッドからに起きあがり床に置いてある靴を履いた。
よいしょ、と爺臭い声を出して立ち上がり掛け布団を綺麗に畳んで、ベッドを囲むようにあるカーテンを開けはせずにくぐって外に出た。
カーテンの中は俺の部屋のような物だから、わざわざ御開帳の必要もないだろうと思ったからだ。
マダムはどうやら外出しているらしく此処には居なかった。
よかった、声を掛けられても、どう返せばいいのか今一分からなくて、戸惑ってしまうから、居てくれない方が心身共に楽だ。
誰も居ない保健室は妙に静かで、その静けさが肌を刺した。
俺は速歩きで保健室の扉を開いて外へ出た。


外に出るとひんやりとした空気流れていた。
人が居ないと言うことは此程、空気を冷たくするものらしい。
酷く、寒気がした。
ぶるりと震えた体を自分で抱きしめ腕をさする。
寮に戻ったら上着を忘れずに一枚持ってこよう。
そんな事を考えながら長い廊下を歩いていく。
絵の中の住人はまだ寝ているし、ゴースト達も姿を見せない。
階段も寝ているらしく、素直に通ることが出来た。
ホグワーツの新しい一面に驚きながら寮への道を急いでるわけではないけれど、無意識に歩調が速くなる。
俺は昔から一人でいると歩く速度が速くなりがちだった。
もしかしたら、競歩の選手に成れるんじゃないかと本気で考えたが、俺より歩くのが速い奴がいたから諦めることにしたこともあった。

ドンッ

そんな回想をしていたら何かにぶつかった。
突然のことで俺は受け身を取ることが出来ずに後ろに倒れ込んだ。
強かに打ち付けた尻が痛い。

「っ、すみません!」

条件反射で声を出して前を見た。

「あ、れ…?」

確かにぶつかったのに、俺の眼前には誰も居らず、ただ十字路の廊下が広がるのみだった。
そこに、俺の疑問がポツンと落とされ残されていた。