くちづけから咲く
「俺ね、実はカズくんのこと好きなんだ。愛してるって意味でね」
「ふーん………はぁぁああああ!?」
いつも通りご近所のカズくんと仲良く登校する。
カズくんが此処にきてからだから、幼馴染みということになるのだろうか。
いや、でもそんなこと言ったら大変な量の幼馴染みができてしまう。
イッキくんとかリンゴちゃんとか、オニギリはきもいからヤだな。
でも親友って感じでもないし。
お友達みたいな希薄なものでもない。
うーん、昔から余り考えるのは得意じゃないから、こう言葉にまとめるのが巧くできないな。
とにかく俺とカズくんは友達以上の関係だと俺は認識していた。
そんな俺の友達以上のカズくんは最近とても楽しそうだ。
前から楽しそうではあったけど、一回すっごい落ち込んでいる時期があって、それからまた楽しそうに、いや前以上に毎日が楽しそうだった。
理由を知らないわけではない。
エア・トレック(だっけ?)というのにはまっているらしい。
イッキくんたちと新しいお友達を交えて毎日練習に励んでいるみたい。
飛ぶのが凄く楽しいって前教えてくれた。
俺はカズくんがそれをやっているのを登校時しか見たことがない。
カズくんは毎日それで学校に行くから。
俺も誘われたことはあるけれどバイトしなくちゃいけないし。中学生だけど。
俺の家はママしかいない。
そのママも恋人の家に入り浸っていて帰ってこないけど、問題はそこじゃない。
簡単に言うとお金がないのだ。
時々思い出されたように通帳に雀の涙ほどのお金が振り込まれているときもあるがそれでは到底生活出来なくて。
大家さんのご厚意で家賃は出世払いにしてもらっている。
問題は学費だ。もちろん奨学金は受けている。
けどそれで全てがまかなわれているわけではない。
だから知り合いの喫茶店のおじさんに雇ってもらったり夜は怪しげなバーの裏方をやっている。
それでなんとかなってる感じ。
朝はもともと低血圧で食べないし。
昼は自腹だけど、夜はバーの方で先輩に奢ってもらっている。
俺の身の上がどうやらあんまりにも衝撃的だったらしい。
俺の周りには結構生い立ちが大変な人が多いからあんまり自覚ないんだけど、有りがたく奢らせてもらっている。
そんな忙しい学生生活を送っているから、俺はエア・トレックなんてやる時間も金もない。
ちなみに金が無いので修学旅行も今まで一回も出たことはない。
だから俺は毎回カズくんたちに話を聞くんだけど、それでも結構楽しい。みんなお土産くれるし。
そんな前置きはともかく、俺とカズくんは最近すれ違ってばっかりだ。
俺が学校にいるときは内職の仕事をやり始めたっていうのもあるんだけど、
カズくんがエア・トレックをやり出して今まで以上にイッキくんたちと一緒になって、
俺は朝の時間しか話さなくなっていた。
朝の僅かな時間で、アキトくんってのが二重人格っていう話やチーム作った話とかそういうのを聞くだけで前は良かったけど、最近少し心にぽっかり穴が空いたみたいだった。
寂しい。心の穴はそう言う感情だって最近知った。
ママにいらないって言われたときだって何とも思わなかったのに、カズくんはママ以上だって思った。
カズくんがドンドン俺から遠くなって、飛んでいってしまうみたいで凄く寂しかった。
イッキくんたちが離れていってしまうのは「仕方ない」の一言で済ませたのにカズくんは違うみたい。
これはつまり、恋なのだろう。
「、それ、え、マジで?」
「……迷惑だよね。ごめんね、忘れてくれて良いよ。出来れば嫌いにならないで欲しいんだけど
、無理だったら仕方ないね。もう一緒に朝行くのやめようか。
嫌でしょ、一緒に行くの。俺も辛いし。振られた相手にいつも通りに振る舞うなんて俺出来ないし。
学校でも話しかけなくていいから。
同情とかされたら俺凄い惨めじゃん?
あ、あと明らかな嫌悪の眼差しとか中傷とか止めてね。
俺、繊細だからすっごい傷ついて再起不能になりそうだから。
夜泣きすぎで枕べちょべちょとか嫌だから。
そんなわけだから、今まで守ってくれてありがとう。
エア・トレック頑張ってね
」
俺はへらりと笑いながら言いたいことだけ言って最後、カズくんに一礼してからそこから走って逃げた。
「ちょ、待てよ!待てって、!」
けど、当然エア・トレックを履いているカズくんを振り切れるわけもなく、100Mも満たないところで腕を捕まれた。
今ほど文明の利器を恨んだ瞬間はない。
折角いつも通りに終わらせようとしたのに、これ以上喋っちゃうと俺泣きそうになっちゃいそう。
カズくんの顔をまともに見れなくて俯く。
「、さっきの、俺のことからかってるわけじゃないんだよな?」
ズキンと心臓のあたりが痛んだ。
「俺、さすがにそれくらいの分別は付けられるもん」
内緒話をするかのようにぼそぼそと呟く。
捕まれた腕が熱を持って熱い。
こんなこと今まで無かったのに、好きだって言葉にしたらそれがまるで真実味を持ったかのように俺を焦がしていく。
それは今の俺にとっては辛いだけだ。
「そっか。俺さ、に昔から言えないことがあってさ」
「…うん」
嫌いだっていうわけ?
昔から嫌いでした。
そんな事実一生胸の中に秘めておいてよ。
「好きだから」
「…何が?」
話の流れが巧く掴めなくて首を傾げてカズを見上げる。
きっと俺はきょとーんとした顔をして居るんだろう。
「この流れでそれ聞くか、ふつー。いや、は天然だから仕方ないと言えば仕方ないか」
「うい?」
「だから、」
俺の顔がカズくんの両手に包まれる。
意図が分からずパチクリと瞬きを繰り返す。
「俺はが昔から好きなんだよ。愛してるの意味で」
カズくんはそれだけ言うと俺の頬を掴んでいた手をはずして顔を真っ赤にして帽子を目深にかぶり直していた。
最初意味が分からなかった俺は瞬きをして、じわじわと理解できた言葉に破顔した。
ていうか耳まで真っ赤にしているカズくんが初々しくて可愛い。
両想いだったなんて気が付かなかった。
そっか。両想い。言葉にしてみると更に実感がわいて胸が満たされていく。
幸せに包まれているっていうのはこういうのを言うんだろう。
「カーズくん」
幸せ絶頂の俺から仕掛けたキスに、驚いた顔のカズくんが忘れられない。
777様。カズがお相手で最後に主人公からキス、というリクエストでした。
リクエストから出来上がりまでかなりの時間が経過してしまい申し訳ありませんでした!
エアギアを書くのは久しぶりだったので個人的に楽しく書けました。
何だか妙に前置きが長くなってしまってすみません。
お気に召しますと幸いです。リクエストありがとうございました。