A bosom secret.



俺にとって学校って言うのは束の間の休息の場だ。 俺は産まれた頃からちょっと特殊な環境で育っていて (いや、実はつい最近『ちょっと』どころではないことに気が付いたのだが、あえて此処はちょっととしておきたい)(俺のためにね!) 周りは大人ばっかりで同い年くらいの子とは話したこと無かったし、 その、不本意ながら勉強もしたことが無かった。いや、一般教養の算数は習ってはいたが。 (10も上のベンジャミンって奴に教えてもらったけどこいつも馬鹿だから全然身に付かなかった) そんな俺は、『ボス』と呼ばれる人のために毎日駆けずり回って、人を、殺していた。 産まれたときから(全然身に付かなかった)算数(ベンジャミン死ねっ!)より先に人の殺し方を学んだ俺は、もちろん人を殺すことに躊躇いも疑問も抱かなかった。 可笑しいって思われるかもしれないけど、俺にとってそれが普通だったんだ。 けど、つい一ヶ月前、ジャッポーネでいう三月に、仕事終わりの俺はボスに呼び出されて其処でジュニアハイスクールに通うように言われた。 すでに12歳を迎えていた俺はまぁ、吃驚したともさ。 「まさか、今更ッスか?」思わず素が出てしまいボスの右腕のフィオラさんにめちゃめちゃ睨まれたの憶えている。 いやぁ、あれはマジで怖かったな。 どうやらボスは有る事無い事ベンジャミンに吹き込まれている俺を哀れに思っていたらしく (だったらお前が教えろ!)(とは言えない主従関係)(フフ) 一般教養ぐらい身につけて来い、と言われてファミリーから追い出された。 うそん。って俺が放心していると噂のベンジャミン君が現れて俺を空港まで送ってくれた。 昔からこいつはタイミングの良い男だった。 あれは忘れるもがな当時5歳の俺は初めて連れて行かれた裏通りで道に迷い…と、そんな俺の昔話は置いておこう。 荷物はもう向こうに送ってあるからってベンジャミンの愛車BMWの中で言われて、何て用意周到なんだ、と思ったりした。 ベンジャミンに渡されたジュニアハイスクールのパンフレットをみるとどうやらジャッポーネの一般学校らしい。 更に吃驚した。普通此処は素直にマフィア関係の学校に入れるだろう。 俺はそんなに周りの人間に教えられない程駄目な部下だったんだろうか。 ローテンションのまま空港でベンジャミンと別れようとしたら、そんな俺を哀れに思ったらしいベンジャミンが「三年後、また会おうぜ」って言ってくれた。 「ボスはああ見えてシャイだから」「シャイか?」 「シャイだよ。だからお前に何にも声掛けなかったんだよ。 マフィア関係の学校に通わせなかったのはお前に一般的な生活を味あわせたかったんだろうな。 きっとあれでもお前を小さい頃からこんな環境で育てたこと後悔してるんだよ。 だから突然ジュニアハイに通わせるとか言い出したんじゃね? だから」頭をくしゃりと撫でられた。「しっかり勉強してこいよ」………。 「ベンジャミンのくせして俺に触れてんじゃねぇよ」俺はそう言ってベンジャミンの手を高速で払い落として踵を返し搭乗ゲートへと足を向けた。 「あ、おま、可愛くねーぞ!ちっ…三年たったら帰ってこいよ!」 背にかけられた声に俺は本当は、本当に不本意だけど、嬉しくて前を向いたまま手を挙げてヒラヒラ振った。 こんなニヤついた顔ベンジャミンなんかに見せられるかっての。 自分の座席に座った。(持ち物のところでビーッて鳴らなくて本当に良かった!) 隣に座ったおばさんに「僕、一人なの?」とか聞かれて「うん、おじいちゃんちに行くの」とかご機嫌で返して見せると「あら可愛い子ね。そんな子には飴をあげるわ」 とか言われて飴を貰い礼を言って直ぐに舐めた。口に広がる甘さは俺の好きなリンゴ味。そのおばさんと話しているとあっという間に舞い上がった飛行機。 おばさんはジャッポーネまではいっぱい時間が掛かるから、と言って寝てしまった。 小窓から外を見る。初めて乗ったわけではないけれど、まさか、三年も此処から離れることになるとは。 小さくなっていく俺の故郷イタリアを見て、ちょっと目頭が熱くなった。 俺はこれから一人で見知らぬ地ジャッポーネで生活していくんだ。 不安と期待が入り混じった俺を乗せて、向かったジャッポーネ。 途中で行く先について考えるのも面倒臭くなってきて寝ることにしたから、案外あっさり付いてしまったジャッポーネ。 おばさんとバイバイしてタクシー乗り場へと向かう。 「並盛に向かってもらえますか?」この瞬間もんの凄く不本意だけどジャッポーネの言葉を教えてくれたベンジャミンに感謝した。 壊滅的な算数と比べてジャッポーネの言葉は何故か得意なベンジャミンは何かと俺にジャッポーネの言葉を教えてきたけれど魂胆はコレか。 知ってたならもっと早く教えて置けよベンジャミン。三年後帰ってたら取り合えず殴ろう。心にそう刻んだ。 それからタクシーのガラス越しに外を見る。イタリアとは全然違う。 建物も人も。何より、知り合いが居ない土地。 ところで、今気が付いたけれど、俺、デリケートだから乗り物苦手なんだった。うげげげ。「ちょっ!お客さん!?大丈夫ですか!!」



+ + +



?」

「恭弥さん」



ここ、応接室の窓枠に腕を組み乗せてその上に顎を乗せていた俺は扉の開く音と共に入ってきた男を振り返ることなく気配だけで誰だか察知した。 入学当時から絡まれて仲良く今年二年生になって今のところ俺にとって一番近い人。雲雀恭弥。 恭弥さんは入学式から圧倒的な強さを誇っていって一気に風紀委員長に上り詰めた人だ。(しかも今年応接室を勝ち取った人でもある) 俺は一度も戦ったことは無いけれど、負ける気はしないが、唯ではすまないだろう。 けど、そんな杞憂は俺には必要なく、恭弥さんは一度だって俺に武器を向けてきたことは無い。 いや、良く頭をトンファーで殴られることはあるけれどそれは俺を『噛み殺す』ためではないことぐらいわかる。 自惚れじゃ無くてね。俺は風紀委員ではない。でも恭弥さんが使っていいっていうから使わせてもらっている。 クーラー付いてるから夏場とか凄い便利なんだろうな。



「どうしたのさ」

「昔を振り返ってたんですよ」



振り返ってみたけど恭弥さんは特に興味が無いみたいで、 ふーん、と言って応接室の机に座って山積みになっている書類に手をつけ始めた。 俺はこの並盛中に通えて凄く幸せだ。 雲雀恭弥とも仲良くなれて、そう、凄く幸せ。 …例え後二年だとしても俺は後悔なんてしたくないから今を中学2年生らしく過ごしていくんだ。 後二年。そう思うと心がチクリとしたけれど、俺はそれを隠して外を見ることにした。 人が疎らに歩いているのが見える。 あ、誰か転んだ。茶色っぽい髪の…あ、黒い髪のこと白っぽい髪の子が手を貸して立たせている。 先輩って感じじゃないし、同級生にあんな顔の奴知らない。後輩かな。 そういえば恭弥さんが最近楽しそうなんだよね。何でだろ。 聞いても何も教えてくれないから俺には関係ないことなんだろうけど。 それはそれでなんだが面白くない。ムム、と俺は良く分からないこの気持ちを抱いたまま不貞腐れるように外を見続けていた。 そのときの俺はまだこれから起こることを何も知らなかった。



(もやもやするこの気持ちは何?)