目を開けると見慣れた天井が広がっていた。
自分の居るべき場所に戻ってきた。
俺はいつの間にかベッドの上にいて、上体を起こして手を握ったり開いたりしてみた。
しっかりと自分の体だ。
時計を見るとオニーサンと会って一時間程しかたっていない。
あの世界の日々はこの世界だと一時間。
それはまるで夢を見ていたかのような感覚。
夢なのかと錯覚してしまうが、腕に巻かれたカズ君から貰ったリボンはしっかりと俺の腕に巻きつけられていて、それがあの世界を夢では無いと証明してくれていた。
あの世界から消えた俺はどうやって処理されるのだろう。
根回しのいいオニーサンだからきっと良い策を施しているのだろう。
こんなにもあっさりと戻ってきた自分がなんだか嫌だ。
きちんと自分で決めてきたことなのに。
「ウッシッ」
頬を叩いて気合を入れた。
ちょっと痛かったけどそれが俺が今ここにいる証。
痛みで出たのか、その前から出ていたのか、いつの間にか頬に伝っていた涙を乱雑に拭って俺はベッドから立ち上がった。
そのまま自分の机の引き出しを漁る。
アルバムの中から出てきた一通の手紙。
アルバムの中の俺は啓ちゃんと一緒に笑っている。
俺はそれを一撫でして手紙の封を切った。
啓ちゃんが転校する前に俺にくれた手紙だ。
あの時俺は受け取るだけ受け取って走って逃げて、この手紙を読むことなくアルバムの中に封印したのだ。
なんて書いてあるのか怖くて今までずっと読めなかった。
でも、それじゃぁ何の解決にもならない。
俺は意を決して文面に目を通した
小さな紙面一杯に書かれた文に俺は知らず知らずの内にまた泣いていたらしい。
頬を涙が伝うのを拭う暇もなく俺は何度も何度も読み返した。
ああ、こんな簡単なことだったのかと。
もっと早く読まなかった自分に後悔したが、おそらく気持ちに整理が付いた今じゃないと読んでもきっと俺は納得しなかったと思う。
頬を伝う涙が暖かくて。
俺は笑った。
嬉しいというか、満たされるというか、この涙がすごく、暖かい。
俺は机の上に置いていた自分の携帯を手に取り涙を拭く暇さえも惜しむように手紙に書かれている数字をなかなか動かない指をもどかしく思いながら打ち込んだ。
『もしもし、』
『もしもし、啓ちゃん?…俺、』
ごめんね ずっと 言えなくて
あの時 助けてくれて本当に ありがとう
ずっとずっと 感謝してたよ
本当に ありがとう
へ
の事だからきっと是を読むのも時間が掛かってるんだろうな。
落ち着いた頃で良い、俺の気持ちを知って欲しいんだ。
ずっとは自分のせいだって責めて、俺の額に付いた傷をいつまでも罪悪感で見つめるんだろう。
もちろんのせいじゃないなんて言わない。
だって、あの時飛び出したが悪いんだしな。
だけど、俺は好きでお前を庇ったんだ。
多分俺はあの時庇わなければずっと今までのの様に自分を責めていたと思う。
エゴなのかもしれない。
自分が傷つかないように本能的に自分を守ったのかもしれない。
けど、是だけは知っていて欲しい。
例え本能的にはそうであっても、俺の意思はお前を助けたかったんだ。
目の前で轢かれそうになるお前を本当に心から助けたいと思ったんだ。
確かに額に付いた傷は消えない。
けど、俺はお前に謝って欲しいわけじゃないんだ。
いつかなりの答えが出来た時連絡をしてほしい。
今までの思いを腹を割って話そうぜ?
いつまでも待ってる。
俺の横はお前用に空けておくから。
またの笑顔が見える日を願ってる。
啓介
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完