暴風族がどれほど大変なものかなんて今はもう身をもって知っている。
いつ誰に背をとられて落とされるかなんて誰にも分からない。
俺等はその恐怖を背負いながらも空を跳ぶことに魅せられて、止まらない。
包み込むような風に魅せられてこその暴風族でもある。
そう分かっていても納得できないこともある。
割り切れない感情。落ち着かない心。
「……シムカ」
「あ、、じゃなかった」
「でいいよ。それより…」
「うん、もう駄目みたい」
何で君は笑顔なの?
いつものようでもあるが、笑顔の下に 影が 悲しみが 焦燥が みえた。
やせ我慢なのは丸分かりでそれでも気丈なシムカ。
椅子で寝ているイッキくんに寄り添うようにしてこちらをまっすぐ見ている。
「地に縫いつけられたんだ」
「うん」
「イッキくんたちは知ってるの?」
「うん」
「我慢してる?」
「え?」
座っているシムカを膝立ちになって抱きしめる。
誰にも悲しい表情を見せまいとする彼女が、昔の俺の記憶に重なった。
不思議そうに見上げてくるシムカを抱きしめて俺は言った。
「泣いて良いよ。我慢しないで、吐きだして、辛いって言えよ。そう、せめて気付いてくれた人の前だけでも泣いて…今のシムカはもう」
飛べないんだよ
声を押し殺して泣くシムカの背を撫でながら俺は、泣きたかった。
シムカをこうした犯人は知っている。
そうした犯人も傷ついている。
責められない。暴雨族の定め。
誰もがただ空を目指しているだけなのに
ヨダカのように星にはなれない
「ありがとう、」
「スピットファイアか」
泣き疲れて眠りだしたシムカをイッキくんに寄り添うようにして寝かせて、俺は病室を後にすると、廊下でスピットファイアが壁に背を預けてこちらを見ていた。
静かな病院で俺等の声は響きすぎる。
俺は窓を指さしてスピットファイアと連れたって夜の病院を出て適当なビルの上に移った。
「シムカは一人で背負いすぎだった。僕たちが何か言っても彼女は気にも留めてくれないからね…助かったよ、」
「俺は、何もしてないよ」
本当に、何もしてないんだ。
俺が家路に付こうとホイールを鳴らすとスピットファイアに腕を掴まれた。
何をするんだと言い返そうと顔を上げると真剣な目をしたスピットファイアが目に入った。
「スピットファイア…?」
「君は、何者だい?」
「え?」
「それだけの実力を持ちながら何処のチームにも付かず、上を目指そうともしない…いや、違う
君はもしかして…」
スピットファイアが最後まで言う前に俺は彼の唇に指を当ててにっこりと笑った。
「 Need not to no 」
そう、まだ
知る必要の無いこと。
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