さんって不思議ッスよね」
「…何処が?」


日曜日。散歩中にカズ君を見かけてナンパした。
スピットファイアとかベンケイとかに小烏丸を今イッキ君の変わりにカズ君が任されていると聞き探しついでの散歩だったので、計画的ではあるけれど。
そんなことより、俺が不思議ってどういうことですか!?

「明るかったり暗かったり、頭が良かったり悪かったり」
「あ、今馬鹿にした?」
「そんなこと無いです。鋭かったり鈍かったり、秘密主義だし。可愛かったり格好良かったり」
「そんなに褒めても何もでないよぉ」
「めちゃめちゃ、嬉しそうッスね。まぁとりあえず、兎に角すっげぇ不思議」

真剣に不思議そうな目で顔を覗き込まれた。
曖昧に笑い返しておく。

「秘密主義っていわれてもねぇ…」
「秘密主義でしょ。だって赤の他人と生活してるって」
「誰が言ったそんなこと」
「アイオーン」

よし、アイオーンを後で殺そう。

「どんな関係なんスか?」
「んー…」

俺と司の関係って改めて考えると酷く薄っぺらい気がした。
毎日俺の世話をしてくれて、司は俺のことをどう思っているのだろう。

「…さてねぇ」
「自分の事じゃないっすか」
「不確かで…俺も良くわかんないや」

カズ君が驚いた顔をしている。
そりゃぁ、よくわからん人間と一緒に暮らしているなんて、俺だってそういわれたら吃驚する。

さんってどっかのチームに所属したりしないんスか?」
「小烏丸に入ってほしい?」
「入ってくれるんすか!?」
「ううん、入らない」

いじけた様な顔をするカズ君に俺は苦笑した。
ごめん、俺は君の敵だから。
項垂れる彼の頭を帽子ごしに撫でる。
ニット帽が暖かい。それが彼の体温であると思うといつまでもこちらが触っていたい。
帽子の隙間から見える金髪。
彼は今、どんな気持ちなのだろう。
悲しんでいる 辛いと感じる 安心している それとも何とも思っていないのか

「ごめんね、カズ君」

君のチームに入れていたら俺は、今違う道を歩んでいるのかもしれない。
それでも、何故だろう。
蝶であることを止めようと思わないのはメンバーを大切に思っているから、それとも俺が昔を引きずっていて啓ちゃんの隣に在りたいと無意識に欲しているからなのか。
いや、もしかしたら俺は意識的に啓ちゃんの隣にいるのではないだろうか。
俺はそれ程に貪欲に、償っているという気持ちになりたがっているのか。


俺は啓ちゃんの幼馴染だった。
啓ちゃんが俺の変わりに事故に会って以来俺は合わせる顔が無くて俺のほうから啓ちゃんを避けるようになって。
しばらくして啓ちゃんは居なくなった。
芸能界に入ることになって学校を転校したのだと噂で知った。
その時から俺は啓ちゃんをテレビ越しに追いかけた。
本当は会って謝りたい。
けど、何ていえば良いのか、その体に残った傷跡を思い起こすたび俺は胸が痛かった。
一生消えないその傷を付けてごめんなさい、なんてどの面下げて言えばいいのか。
俺は、この世界の啓ちゃんが何も知らなくて、辛かった。
謝れないと思った。
でも、俺はこの世界の啓ちゃんが何も知らなくて、助かったと思った。
罪悪という重荷が軽い気がした。
遠い昔のようにまた啓ちゃんと肩を並べられて、純粋に嬉しい。

けれど、俺はこの世界の住人ではないから。

さん?」

声を掛けられハッと顔を上げると心配そうに俺を覗き込んでくるカズ君が居た。
ごめんごめん、とカズ君に謝った。

もっと本当は違う人に謝らなくちゃいけないのに。

「我慢しないで…」

よっぽど俺は酷い顔をしていたんだろう。
カズ君に強く抱きしめられて俺は人の温かさに、ひどく安心した。