「まさか六人で相手するわけじゃないっすよね?」
「まさか。ちゃんと五人だよ」
「手加減してやっても良いけどな」
カズの疑問にチカと英喜が返す。
英喜の小馬鹿にした発言にカズは表情を崩した。
「英喜、今のは言いすぎだ」
俺が英喜に注意すると英喜は気の無い謝罪を述べる。
俺がそれに苦笑するとカズと目が合った。
直ぐに気まずそうに顔をそらされてしまう。
それを寂しいと思いながら、俺は司達を振り返った。
「司、啓ちゃん、英喜、チカちゃん。これが全員そろって始めてだから、精一杯やろう」
(これが最初で最後になるから、すべて、見ていたい)
全員が頷くのを確かめてから俺は小烏丸に向きなおした。
「試合方法はバルーンで良いよな?」
「ああ」
「もし、俺達が負けたら俺らのエンブレムと所有地をくれてやる。けど、俺達が勝ったら、エンブレムは要らない。これ以上俺らに深く関わるな」
「はぁ?!全然釣り合いが取れてねえじゃねぇか!馬鹿にしてんのか?!」
「違う」
「なら何で…」
「そっと寝かしてほしい」
俺らは何にも侵略しない。
だからそっと寝かしておいてほしい。
「一応目印になるからエンブレムを風船の中に入れさせてもらうぞ。咲羅が風船から手を離したらスタートだ」
* * *
(何でさんは動かねぇんだ?)
戦が始めって結構経つがは一向に動く気配を見せない。
一応マークとしてカズが付いているが、本当に動く気が無いように見えた。
一分一秒を逃すのも惜しいのか、戦をじっと見ている。
偵察というより、その目には何処か寂しそうな愛おしそうな色を灯らせていて。
まるでが消えていくような儚さが伺えた。
繋ぎ止めておきたくて抱きしめてしまいたいが、そうはいかない。
そもそも、ずっと自分達に蝶の一員ましてリーダーだった事を黙っていて、何故今になって急に戦を引き受けたのか。
蝶は今まで、全員そろうことは無く顔も見せずに適当にあしらうかのように戦っていた。
如何して今更、できればとは戦いたくないのに…。
ギリと口端を噛んで他のメンバーの様子を伺った。
オニギリには英喜
ブッチャにはチカ
アギトには司
イッキには啓介
全員良い勝負をしている。
アギトやイッキにひけをとらないATの扱いに目を見張るほどだ(オニギリに関しては完璧に遊ばれているが)。
より少し上の棒の上に立ってカズは帽子を下げた。
戦いたくない。
「ねぇ、カズ君」
「…?」
顔を下げてをみると寂しそうな笑みを浮かべてがこちらをみていた。
「もし、俺がここから…カズ君達の前から消えたらどうする?」
「ぇ?」
突然の問いに動揺する。
とっさに答えがでなくて、言われたことの意味が分からなくてカズは硬直した。
「風船がっ!」
リンゴに声に全員が上を見上げた。
強風に煽られ風船が手の届かない場所へと上ろうとしていた。
「ちっ!」
イッキが啓介と遣り合うのを止めて地を蹴った。
手を精一杯伸ばすが届かない。
もう一度アギトに協力してもらって跳ぼうと思った時だった。
「っ!?」
突然一瞬肩に重みが走った。
「ごめんね、肩借りるね」
がイッキの肩を蹴ってさらに高く跳んだ。
その後姿は蝶の様で全員の時間が停止したかのように思えた。
しばらくして我に返ったカズがが居た場所を見ると居ない。
本当にいつの間に消えたのだろう。
視線を戻すとが赤い風船を手に持ってビルの上に立っていた。
← →